2025.05.29 片足を浮かせる・スキップ歩き…犬の前十字靭帯断裂に要注意【獣医師が解説】
「片足を浮かせて歩く」「スキップするような歩き方をする」そんな愛犬の仕草に気づいたことはありませんか?
これらは、足に痛みや違和感があるサインであり、その原因のひとつに「前十字靭帯断裂」があります。犬に多いこの膝のけがは、放置すれば悪化し、やがて日常生活に支障をきたすこともあるため、早期の発見と治療が重要です。
今回は、犬の前十字靭帯断裂について、仕組みや症状、治療法まで詳しく解説します。
■目次
1.前十字靭帯断裂とは?|犬に多い“膝のトラブル”
2.こんな症状は要注意|歩き方・動き方の変化に注目
3.原因と発症リスク|なぜ起きるの?予防できるの?
4.診断と治療法|手術が必要?保存療法で治る?
5.まとめ
前十字靭帯断裂とは?|犬に多い“膝のトラブル”
犬の膝関節には、太ももの骨(大腿骨)とすねの骨(脛骨)をつなぎ、関節の安定性を保つ「前十字靭帯」があります。この靭帯がしっかり機能することで、犬は走ったり、ジャンプしたり、方向転換をしたりと、さまざまな動きをスムーズに行うことができます。
しかし、前十字靭帯が損傷すると、関節が不安定になり、ぐらつきや痛みによって足をかばうような歩き方が見られるようになります。
<完全断裂と部分断裂の違い>
前十字靭帯の損傷には、程度の違いがあります。以下のような分類を理解しておくことが、症状の見極めに役立ちます。
・完全断裂
靭帯が完全に切れてしまい、明らかに歩き方がおかしくなったり、歩行そのものが難しくなることがあります。
・部分断裂
靭帯の一部のみが損傷している状態で、違和感や軽い歩行異常のような比較的軽度な症状が多く、初期は見逃されやすいのが特徴です。
小さなサインを見逃さないことが、重症化を防ぐカギになります。
こんな症状は要注意|歩き方・動き方の変化に注目
前十字靭帯断裂では、以下のような行動の変化がよく見られます。
・片足を浮かせて歩く
・スキップするような歩き方
・足を引きずる
・座るときに片足を伸ばしている
・立ち上がるのをためらう
これらはすべて「痛みのサイン」としてとらえるべき動きです。
犬は痛みを我慢する傾向があるため、鳴いたりうなったりしなくても、行動の変化に注目することが大切です。
こうしたサインに気づいたときは、悪化を防ぐためにも早めに動物病院を受診しましょう。
原因と発症リスク|なぜ起きるの?予防できるの?
前十字靭帯断裂は、特別な事故がなくても起こることがあり、どんな犬にも起こりうる身近なけがです。特に、活発に動く子やシニア期を迎えた子では、膝への負担が積み重なり、ある日突然トラブルにつながることもあります。
<前十字靭帯断裂が起こる主な原因>
・膝への強い負荷(ジャンプの着地や急な方向転換など)
・加齢による靭帯の弱化
・肥満による膝への負担増加
<発症リスクが高い犬種>
以下の犬種では、遺伝的な体質などにより前十字靭帯断裂のリスクが高いとされています。
・ラブラドール・レトリーバー
・ゴールデン・レトリーバー
・シェットランド・シープドッグ など
<予防のためにできること>
肥満や運動不足による筋力の低下も、発症リスクを高める要因のひとつです。以下のような日常の工夫が予防につながります。
・適正体重の維持:毎日の食事量や内容を見直してみましょう
・無理のない運動習慣:急な動きやジャンプを控え、安定した運動を取り入れましょう
・滑り止めマットの活用や段差対策:転倒や過度な膝の負担を防ぐ環境づくりも大切です
診断と治療法|手術が必要?保存療法で治る?
「足を痛がっているけど、まさか手術…?」そんなご不安を感じている飼い主様もいらっしゃるかもしれません。ここでは、診断から治療の流れまでをご説明します。
<診断の流れ>
まずは、膝の関節がどの程度ぐらついているかを確認する「引き出し試験」や、痛みの場所を探る「触診」などの身体検査が行われます。必要に応じて、レントゲンやMRI、関節鏡などの画像検査も実施し、靭帯の損傷の程度を詳しく調べていきます。
<治療法の選択肢>
前十字靭帯断裂の治療は、症状の重さや犬の年齢・体格によって適した方法が異なります。主に以下の2つがあります。
・保存療法
部分断裂や比較的軽度の場合に選ばれます。消炎鎮痛剤で痛みを和らげながら、安静を保って回復を目指します。特にシニアの子など、手術に不安がある場合にも選択されることがあります。
・手術療法
完全に断裂している場合や、保存療法での改善が見込めない場合は、手術が必要です。人工靭帯の代替素材を用いたり、骨を固定したりすることで、膝関節の安定性を取り戻します。
<術後のリハビリの大切さ>
手術を受けた場合も、ゴールは「手術をすること」ではありません。その後のリハビリテーションがとても大切です。無理のない範囲で筋肉を使う練習を重ねることで、膝の動きや筋力が少しずつ回復し、再発予防にもつながります。
ご自宅での過ごし方やリハビリの方法も、獣医師と相談しながら二人三脚で取り組んでいきましょう。
まとめ
犬の前十字靭帯断裂は、実は意外と多く見られる、身近な膝のトラブルです。「足をかばう」「片足を浮かせる」「スキップするように歩く」などの動きには、飼い主様が気づける大切なサインが隠れています。
痛みや不安を言葉で伝えられない犬にとって、飼い主様の“気づき”こそが、健やかな回復への第一歩になります。「とりあえず様子を見よう」としているうちに症状が進んでしまうことも多いため、早期発見・早期治療が何よりも重要です。
「ちょっとおかしいかも?」と感じたときは、どうぞ当院までお気軽にご相談ください。
診断や治療はもちろん、その後のケアやリハビリまで、しっかりとサポートいたします。
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