2025.06.09 猫の繰り返す下痢や嘔吐、もしかして炎症性腸疾患(IBD)かも?特徴と治療法を解説
「最近、猫が頻繁に吐いている」「下痢が続いて治らない」
そのような症状には、もしかすると「炎症性腸疾患(IBD)」という慢性的な腸の病気が関係しているかもしれません。
猫の炎症性腸疾患は、見た目だけではわかりにくく、初期は「ちょっとした体調不良」と思われがちです。
今回は、猫の炎症性腸疾患の特徴や診断方法、治療・日常ケアまでを詳しく解説します。
■目次
1.炎症性腸疾患(IBD)とは?
2.「胃腸炎」との違い|“なかなか治らない”ときに考えたいこと
3.検査と診断の流れ
4.治療法と日常のケア
5.まとめ
炎症性腸疾患(IBD)とは?
炎症性腸疾患(IBD:Inflammatory Bowel Disease)は、腸の粘膜に炎症細胞が集まることで、消化機能にさまざまなトラブルを引き起こす病気です。はっきりとした原因はわかっていませんが、以下のような複数の要因が関係していると考えられています。
・腸内細菌のバランスの乱れ
・食事に対する過剰な免疫反応
・遺伝的素因やストレス
炎症性腸疾患は「免疫抑制薬反応性腸症(IRE)」と分類されることもあり、適切な管理が必要です。
「胃腸炎」との違い|“なかなか治らない”ときに考えたいこと
炎症性腸疾患の症状は嘔吐から下痢までさまざまで、よくある胃腸炎と初期症状が似ているため見分けがつきにくいのが特徴です。
しかし、以下のような違いがあります。
<一般的な胃腸炎>
・数日~1週間で自然に改善することが多い
・原因がはっきりしていることが多い(食あたりなど)
・体重や体力への影響は少ない
<炎症性腸疾患>
・3週間以上、嘔吐や下痢が続く
・明確な原因が特定できないことが多い
・徐々に痩せる、食欲低下、脱水などが見られる
炎症性腸疾患は重症化すると、消化管の粘膜から血液中のタンパク質が漏れ出る「蛋白漏出性腸症」を起こすことがあります。腹水(お腹に水がたまってお腹が張る)や浮腫(手足や全身のむくみ)などの症状がみられる場合には注意が必要です。
検査と診断の流れ
炎症性腸疾患の診断では、まず下痢や嘔吐といった症状の原因として考えられる他の病気がないかを順に調べていきます。以下のような検査を組み合わせて、全身の状態や消化管の異常の有無を確認します。
・糞便検査:寄生虫や細菌感染の有無を調べます
・血液検査:全身の炎症や栄養状態、肝臓や腎臓など臓器の機能を確認します
・画像検査(レントゲン・超音波):消化管の異常や腫瘍の有無を調べます
こうした検査でも明確な原因が見つからない場合には「除外診断」と呼ばれる方法で診断を進めます。これは、治療に対する反応を確認しながら、他の可能性を一つずつ排除していくアプローチです。
たとえば次のような対応を試みます。
・食事を消化にやさしいフードに切り替える
・抗菌薬を一定期間投与する
こうした対応で症状が改善すれば、別の原因(食事や感染など)が関与していたと考えられます。一方で改善が見られない場合は、炎症性腸疾患の可能性が高いと判断されます。
必要に応じて、内視鏡で腸の粘膜を採取し、組織検査(病理検査)によって炎症の状態を詳しく調べることもあります。全身麻酔が必要となるため、体調や経過をふまえて獣医師と相談のうえ実施を検討します。
治療法と日常のケア
炎症性腸疾患の治療では、症状のコントロールと腸内環境の安定を目指して「食事療法」と「薬物療法」を組み合わせて進めていきます。
<食事療法>
食物アレルギーや免疫反応が関与している場合は、低アレルゲンフード(加水分解タンパク質を使った療法食など)への切り替えが有効です。
どの食事が愛猫に合うかは個体差があるため、必ず獣医師と相談しながら選ぶことが大切です。市販のフードを自己判断で与えるのは避けましょう。
<薬物療法>
食事療法だけで症状が改善しない場合は、内服薬を併用して治療を行います。使用する薬は症状の程度や反応を見ながら調整します。
・抗生剤:腸内の細菌バランスを整える
・ステロイド剤:炎症を抑える
・免疫抑制剤:ステロイドで効果が不十分な場合に使用
・その他:下痢止めや吐き気止めなど、症状に応じた対症療法
<日常のケア>
炎症性腸疾患は「完治が難しい」とされる病気ですが、適切な治療とケアにより、日常生活に支障のない状態を保つことも十分に可能です。
愛猫の健やかな日々を支えるために、次のような日常管理を心がけましょう。
・症状が落ち着いていても自己判断で薬やフードをやめない
・定期的な通院と検査を続ける
・再び下痢や嘔吐が始まったらすぐに相談する
愛猫の小さな変化にも気づいてあげられるよう、日々の様子を見守りながら、獣医師と連携して治療を続けていきましょう。
まとめ
猫が繰り返し嘔吐や下痢をしていても「ちょっと食べすぎたのかな?」と思ってしまうこともあるかもしれません。しかし、放置してしまうと症状が進行し、回復までに時間がかかることもあります。
「いつもと様子が違うな」と感じたら、お早めにご相談ください。当院では、丁寧な診察とわかりやすい説明を心がけ、飼い主様とともに愛猫にとって最適な治療を考えてまいります。
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